自己破産の申立てをおこなってから自己破産の手続き中は、「破産者」という扱いになります。破産者になりますと、職業の制限を受けてしまいます。
たとえば、警備員や弁護士、行政書士、公認会計士、不動産鑑定士などなど多くの仕事が自己破産の資格制限を受けてしまいます。しかし、自己破産の手続きが終了して、資格制限が解除されてもとの一般人の状態に戻ることを「復権」といいます。
今回は自己破産と復権について紹介をしていきます。
目次
破産者とは?
自己破産の申立を裁判所へおこない、破産手続開始の決定が下ると、一般人から「破産者」になります。
破産者は免責許可の決定を受けると同時に復権を果たすのです。しかし、破産者は一般人とは異なり、さまざまな制限を受けることになります。
[aside type=”boader”]- 財産の管理処分権の喪失
- 説明義務
- 居住の制限
- 引致・監守
- 通信の秘密の制限
- 公法上の資格制限
- 私法上の資格制限
- 官報への掲載
同時廃止事件の場合、上記のすべてが適用されるわけではありませんが、管財事件の場合は上記すべての制約を受けることになります。
財産の管理処分権の喪失
自己破産をして20万円以上の財産(20万円基準の場合)を持っている管財事件の場合、その財産は破産財団というものに組み込まれて、破産管財人主導のもとで換金処分されてしまいます。破産管財人とは裁判所が選任する弁護士のことです。
ただし、同時廃止事件という財産がまったくない状態で自己破産をした場合、破産管財人が選任されません。なぜなら、管理処分する財産がないからです。
説明義務
破産者は、破産管財人や債権者集会の請求により破産についての必要な説明をしなければなりません。
[aside type=”boader”] この際、嘘をついたり、説明を拒んだりすると免責不許可事由に該当してしまい、免責許可を得ることが難しくなります。免責許可を得なければ復権をすることが困難になります。[/aside]居住の制限
破産者に財産があり破産管財人が選任される管財事件になった場合、破産者は裁判所の許可を得ずに転居は旅行をすることができなくなります。破産者の逃走や財産隠匿行為を防止するための制限です。
実際の運用では、一時的な外出の場合は裁判所へ届け出を出す必要はありません。相当期間にわたり、住んでいる場所から離れる旅行などの場合は、裁判所から許可を得る必要があります。
[aside type=”boader”] もちろん、合理的な理由があれば裁判所は問題なく許可を出しますので、破産者にとって、そこまで不利益であるというわけではありません。[/aside]同時廃止事件の場合、転居の制限を受けることはありません。
引致・監守
破産者は裁判所が必要と認める場合において、身体を拘束されることがあります。また、逃走または財産隠匿行為をするおそれがある場合、監守を命じられることがあります。
同時廃止事件の場合は関係がありません。
通信の秘密の制限
破産者にあてた郵便物などは、まず破産管財人へ配達され、破産管財人は受け取った郵便物などを開封することができます。
[voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]同時廃止事件の場合は関係がなく、あくまで破産者の郵便物だけなので、家族の通信の秘密は守られます。[/voice]
公法上の資格制限
[aside type=”boader”] 破産者は、- 弁護士
- 公認会計士
- 公証人
- 司法書士
- 税理士
- 弁理士
- 宅地建物取引業者
などの職業につくことができません。[/aside]
よくある誤解として、選挙権や被選挙権などの公民権を喪失するというものがありますが、公民権は喪失されませんので勘違いしないようにしてください。
私法上の資格制限
[aside type=”boader”] 破産者は、- 後見人
- 後見監督人
- 保佐人
- 遺言執行者
などになることはできません。[/aside]
以前は合名会社や合資会社の社員の退職自由となり、株式会社の取締役、監査役は退任事由となっていましたが、会社法の改正により、これらの制度はなくなっています。
官報に掲載
官報という国が発行する公報に破産者として掲載されます。しかし、官報を細かく読んでいる人は極めて少なく、破産者の名前が書かれていることすらしらない人の方が圧倒的に多いのではないのでしょうか。そのため、破産をしたことが官報へ名前が載ったことが原因で周囲の人に知られるとい心配はほとんどする必要はないでしょう。
自己破産をしたらずっと破産者?
自己破産をしてしまうと、一生、前述した破産者となってしまい制限を受け続けながら、破産者の烙印を押されて生活をしなければならないと考えてしまいがちです。そのため、自己破産の手続きをためらってしまう人も実際問題いるでしょう。
[aside type=”boader”] しかしながら、法律上では、自己破産の手続きが終了したり、免責が確定したりした時点で破産者から一般人に戻ることができます。[/aside]自己破産の期間中は前述したように、資格が制限されて一部の職業につくことができなくなったり、長期の旅行や引越しをすることができなくなったり、郵便物を勝手に開封されてしまったり、さまざまな制限を受けることになります。
しかし、免責が確定して復権さえ果たしてしまえば、制限はすべてなくなり一般人と同じように元の生活に戻れます。
破産法上の「復権」のタイミング
復権は2つの種類があります。
[aside type=”boader”]
- 当然復権
- 申立てによる復権
当然復権
当然復権とは、自己破産手続の終了と同時に復権をすることです。
破産法252条にて当然復権が定められています。
[aside type=”boader”] つまり、[第二百五十五条]
破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
- 一:免責許可の決定が確定したとき。
- 二:第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
- 三:再生計画認可の決定が確定したとき。
- 四:破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
- 免責許可の決定が確定したとき
- 債権者の同意により破産手続きの廃止は決定したとき
- 再生計画の認可決定が決定したとき
- 詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき
この4つの当然復権になる場合です。[/aside]
この中でもっとも多く、一般的なケースが1番の「免責許可の決定が確定したとき」の当然復権です。
自己破産手続きをするのですから、免責許可を得て借金を免除してもらいたいと考えるのが必然ですし、統計上、ほとんどのケースで免責許可がおりています。そのため、基本的には自己破産の手続きが終了すれば、そのタイミングで復権を果たすと考えていて問題はないでしょう。
免責許可による復権までの期間
免責許可を得て復権を得る期間ですが、自己破産の手続きにより復権までの期間が変わります。
財産がない状態で破産手続をする同時廃止事件の場合、復権までの期間は3ヶ月~6ヶ月程度で復権を果たすことができるでしょう。弁護士へ依頼をすることで、復権までの期間を短くすることができます。司法書士や個人で自己破産をする場合、復権を果たすまでの期間が長くなる傾向があるのです。
そして、管財事件の場合、復権を果たすまでに6ヶ月~1年程度の時間がかかります。管財事件の1つの形態である、少額管財事件の場合は復権を果たすまでに4ヶ月~6ヶ月程度の期間がかかります。
少額管財事件を利用するためには、少額管財事件はすべての地方裁判所が運用している制度ではありません。また、利用するためには弁護士に依頼をする必要があります。
管財事件を選ぶよりは、少額管財事件を選んだ方が早く復権を果たすことができるので、利用できるのであれば、積極的に利用した方がいいでしょう。
免責許可以外の復権について
あまり利用する機会はないと思われますが、免責許可以外の復権についても紹介をします。
まず、2番目の「債権者の同意により破産手続きの廃止は決定したとき」ですが、破産者が自ら「破産手続きを廃止してください」と申立て、それをすべての債権者が同意した場合、復権します。
しかし、債権者の立場からした場合、破産者の申立てに同意をした場合、清算手続きが廃止されてしまい、配当を受けることができなくなります。なので、現実的に廃止に同意をすることは、まずありえません。
[aside type=”boader”] 3番目の「再生計画の認可決定が決定したとき」と4番目の「詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき」は、自己破産をしたものの、免責許可を得ることができなかった場合に選択する方法です。原則として、破産手続きの開始から10年経過すれば、免責許可を得ることができなくても自動的に復権を果たすことができます。[/aside]免責許可が下りなかったとき
自己破産手続において、免責許可がおりなかったとき、選択肢は2つあります。
[aside type=”boader”]
- 個人再生を申立てる
- 何もしない
この2つです。[/aside]
個人再生の申立てをおこない、再生計画が認可されれば、当然復権の3番目である「生計画の認可決定が決定したとき」を利用して復権を果たすことができます。また、何もしなくても、詐欺破産罪に問われない限りにおいて、10年放置することで勝手に復権を果たします。
当然復権の期間
当然復権は、前述したとおり4つの種類があります。
前述した4つの種類の内「債権者の同意により破産手続きの廃止は決定したとき」は現実的ではありませんのでは省きます。
1番目の「免責許可の決定が確定したとき」についてですが、これは手続きにもよりますが、3ヶ月~1年程度で当然復権を果たすことができます。
免責不許可になった場合、個人再生か放置を選択することになります。「再生計画の認可決定が決定したとき」の場合、うまくいけば1年程度で当然復権が可能です。
そして、「詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき」の場合、自己破産開始から10年経過することで10年経過することで、当然復権を果たします。
[aside type=”boader”] つまり、- 免責許可の決定が確定したとき:3ヶ月~1年
- 再生計画の認可決定が決定したとき:1年
- 詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき:10年
このようになります。[/aside]
申立てによる復権について
当然復権は何もしなくても、自動的に復権することをいいます。
[aside type=”boader”] 一方、裁判所へ「復権をさせてください」と申立てることで復権することもでき、これを「申立てによる復権」です。[/aside]
破産法256条第1項(復権の決定)
破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
たとえばですが、借金の消滅時効の成立は5年です。免責許可を得ることができなかったけれど、5年の消滅時効が成立して借金がなくなった場合、頑張って借金の残額を返済した場合などに裁判所へ申立てることにより、破産者でなくなることができます。
[aside type=”boader”] 10年経過すれば何もしなくても自動的に復権をしますが、途中で借金がなくなったので早く復権をしたいという場合に利用が勧められる制度です。[/aside]自己破産の免責許可さえ下ってしまえば、申立てによる復権をする必要はなく、あくまでも免責許可が下りないという特殊なケースです。
復権のために特別な手続きや確認方法はない
復権にあたって、裁判所になんらかの手続きや申請をおこなわなければならないと考えている方もいるでしょうが、復権のほとんどが当然復権になります。つまり、特別な手続きをする必要は何もする必要はありません。
自己破産で免責が確定すれば、自動的に破産者は復権をはたします。破産者は復権のために特別な手続きや方法を意識する必要はないのです。
復権を確認する方法
自動的に復権を果たす、当然復権の場合、本当に復権を果たしたのか心配で復権を確認する方法はないものかと悩んでしまう方もいるかもしれません。
[aside type=”boader”] 復権を確認する方法としては、市役所で発行される「身分証明書」を取得すれば、そこに破産者かどうかが記載されています。そのため、身分証明書を利用して確認する方法であるといえます。[/aside]身分証明書には、「破産宣告通知を受けていない」と記載されていれば、すでに復権を果たしていると考えていいでしょう。
[aside] この身分証明書は、他人が勝手に閲覧することはできませんので、この身分証明書が原因で自己破産をした事実がばれる心配はありません。[/aside]復権の効果について
破産者から復権を果たすと、資格や職業に関する法律の制限が解除されます。
破産法第255条第2項に、復権の効果について記載されています。
[aside type=”boader”] この人の資格に関する法令ですが、簡単にいえば職業や士業によって定められた法律のことであり、弁護士法、弁理士法、司法書士法、公認会計士法、税理士法、土地家屋調査法、不動産の鑑定評価に関する法律、行政書士法、社会保険労務士法、通関業法、宅建業法、警備法などが、「人の資格に関する法令」です。破産法第255条第2項
2:前項の規定による復権の効果は、人の資格に関する法令の定めるところによる。
[/aside] これらの職業や資格に関する法律には、資格要件として「破産者で復権を得ないもの」は資格士として登録できない、またはその職業に就けない、といった資格制限があります。
どの法律でもあっても同様で「破産者で復権を得ないもの」というキーワードが出てきます。
これらの記述がある職業や資格の制限は、破産後に復権をすれば、自己破産をする前と同様に従事することができます。
[aside type=”boader”] また、どの資格においても自己破産をしたからといって、資格がはく奪されて、また資格試験を受けなおしてきてください、というわけではありません。一時的に資格を喪失したり、日本弁護士会のような会から登録削除されたりします。当然、復権をしたら再登録の申請をすることも可能です。[/aside]復権をしないと破産者名簿に名前が載る?
2005年以前は破産者の期間が、破産者名簿に名前が載るという規定でした。つまり、復権をしなければ破産者名簿に名前が載ってしまったわけです。
しかし、2005年の破産法改正に伴い、破産者だからといって破産者名簿に名前が載るわけではないと、規定が変更されました。
そのため、破産者名簿に名前が載るのは、破産手続を開始したものの免責許可を得ることができなかった人のみが破産者名簿に名前が載るように変わりました。
つまり、免責許可が下りなかった場合、破産者名簿という名簿に名前や住所が記録されることになります。
[aside type=”boader”] しかし、自己破産の9割以上で免責許可がおりていますので、自己破産をしても破産者名簿に名前が載ることなく自己破産の手続きが完了するというケースが一般的です。[/aside]また、破産者名簿を一般人が閲覧することは不可能です。破産者名簿が必要な理由としては、前述した一定の職業に登録するときに、所管官庁が破産者に該当していないかどうかをチェックする必要があるからです。信用が問われる職業に破産者がつくことがないように、官公庁のチェックに利用されるのが破産者名簿です。
まとめ
自己破産をすると、破産者になります。破産者になるとさまざまな制限を受けることになります。その制限を解除するためには、免責許可を受けて復権を果たす必要があります。
復権には、2つの種類があります。
[aside type=”boader”]
- 当然復権
- 申立てによる復権
[aside type=”boader”]
- 免責許可の決定が確定したとき
- 債権者の同意により破産手続きの廃止は決定したとき
- 再生計画の認可決定が決定したとき
- 詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき
一般的には1番目の「免責許可の決定が確定したとき」が利用されます。
申立てる復権は裁判所へ申立てることにより復権を果たすものです。
[aside type=”boader”] そして、2005年以前は復権を果たす前は、破産者名簿に名前が載っていましたが、現在では免責許可の決定を受けることができなかったときに名前が載りますので、ほぼ破産者名簿に名前が載ることはありません。[/aside]