自己破産とは債務整理のひとつの方法にすぎません。しかし、他の債務整理と比較をすると自身もダメージを負うものの、その効果は絶大であり、借金の返済義務がなくなります。しかし、人によっては自己破産を選ぶことができない人もいます。
今回は自己破産と債務整理方法の一つである、任意整理との関係性について紹介をします。
自己破産をすることができない人とは

支払不能状態ではない人
自己破産は破産法という法律により決められた法的手続きになります。自己破産をするためには、支払不能状態と認められる必要があります。支払不能状態であれば、裁判所にて自己破産の手続きを進めることができるわけです。
では、支払不能状態とはどのような状態なのかといえば、現在、そして将来にわたり借金の返済が不可能である、という状態です。若くて働けるのであれば支払不能状態とは認められないケースもありますし、若くなくても信用がありお金を用意することができれば、それもまた支払不能状態とは認められません。
換価可能財産を多くもっている場合も支払不能状態とはいえないでしょう。
この支払不能状態については、裁判所が認めるものであり、借金の額が何百万円以上あるから支払不能状態であるとは認められないところが厄介な点です。
自分が支払不能かどうかを確認するための方法としては、可処分所得と支払っている利息を確認すれば判明します。借金の総額は支払不能の有無にはあまり関係ありません。可処分所得は年ベースでも月ベースでもかまいません。
たとえば、月ベースで考えた場合、まずは自分の月ごとの可処分所得を確認しましょう。次に、自分の借金の金額から月ごとの利息を計算します。この月ごとの利息の計算ですが多重債務者の場合は面倒になります。
なぜなら金融機関により利息がすべて異なるからです。そのため、金融機関ごとの借入額と利息リストを作っておくと便利でしょう。これは債権者一覧表の記入にも役にたちます。
破産に適さない場合
支払不能状態の他にも、自己破産をすることができない人がいます。
- 自己破産によって資格を喪失する職業についている場合
- 不動産を所有している場合
- 免責不許可事由がある場合
この3つです。
自己破産によって資格を喪失する職業についている場合
もちろん、免責確定後は破産者から復権をしますので、資格の登録を再度しなおせば問題ありません。
しかし、警備員などは一度退職をしなければならないケースがあります。
不動産を所有している場合
自己破産をすると原則として不動産を手放さなければなりません。
そのため、相談者が不動産を所有し続けたいと希望する場合は、自己破産ではなく別の債務整理方法、たとえば、任意整理を選択しなければなりません。
免責不許可事由がある場合
しかし、たとえば自己破産をしてから7年以内の自己破産の場合は、免責不許可事由として免責を受けるのが難しくなり、必然的に民事再生(個人再生)を利用するしかありません。免責不許可事由で免責を受けることができないと最長10年は破産者として制限のある生活を送らねばならず不利益を被ることでしょう。
任意整理とは?

そして任意整理ですが、自己破産のように裁判所を介さずに弁護士が貸金業者と交渉をすることで、借金の返済額を減額していく方法です。任意整理をすることにより、利息を一部免除してもらったり、利息で払いすぎた分を利用して債務の元本を減らしたりすることができます。
また、近年の消費者金融業者などの貸金業者は、過払い金返還ブームの影響により、資金面での体力がなくなっていますので、素人が個人的に任意整理をするというのが現実的ではありません。また、専門的な知識がありませんから、前述したとおり交渉に応じてくれなかったり、交渉に応じたとしても債権者に非常に有利な条件で和解することになったりするでしょう。
そのため、弁護士か司法書士などの専門家に依頼をするといいでしょう。ただし、司法書士は140万円を超える案件は弁護士法により、その案件を取り扱うことができなくなります。

そして、任意整理のメリットのひとつが任意の業者を選んで和解交渉をすることができます。A社、B社、C社の3社から借金をしている場合、A社、B社とは任意整理の和解交渉をして、C社を交渉の席から外すことが可能です。
しかし、任意整理の場合は法的行為ではなく、あくまでも私的な和解交渉になります。つまり、特定の債権者を任意整理の対象から外したとしても問題はありません。
この特定の債権者のみに返済をすることができる点は、他の債務整理にはないメリットであるといえます。
任意整理の借金減額効果
任意整理の借金の減額効果についてですが、下記のようなものがあります。
- 返済期間のリスケジューリングをすることができる
- 将来利息のカットをすることができる
- 遅延損害金を免除することができる
上記の3点が、任意整理をすることでおこなうことのできる借金の減額効果です。
前述しましたが、任意整理には借金の元本の減額効果というのはありません。
返還を受けた過払い金を、すでに返済ものとして元本の減額をさせることができます。
また、元本の減額手段として、一定のまとまった額を返済するので元本を減額させるという方法もあります。ただ、この方法はそこまで現実的な元本減額手段であるとはいえません。
これらのことから、任意整理をおこなったとしても、借金の元本を減らすことは困難であるということです。
返済期間のリスケジューリングをすることができる
任意整理として一般的なのは、返済期間のリスケジューリングです。つまり、返済期間の延長になります。
ただ、基本的には3年以内に完済をするように求められます。5年間認めるというのはかなり稀な事例です。
将来利息のカットをすることができる
借金の何が厄介かといえば、利息です。
利息をカットすることができれば、元本のみを返済していけばいいので、リスケジューリングをして返済期間が長くなったとしても、総返済額が増額することはありません。
結果として、毎月の返済負担額が減少しますので、借金の返済が楽になるでしょう。
遅延損害金を免除することができる
返済が遅れて発生した遅延損害金をカットすることができます。そのため、総支払額は減額します。結果として毎月の返済は非常に楽になるといえます。
任意整理のメリット

任意整理のメリットについて紹介をします。
任意整理のメリットとしては、下記のようなものがあります。
- 自己破産を回避することができる
- 裁判所へ行かなくていい
- 自己破産より心理的な負担が軽い
- 借金の種類を問わずに利用することができる
- 利息が免除される
- 不動産や自動車などの財産を没収されずに済む
- 保証人に迷惑をかけにくい
- 勤務先にばれない
- 官報に名前が載らない
このようなメリットが、任意整理にはあります。
自己破産と比べてもメリットは大きいと思われます。
自己破産を回避することができる
借金返済を任意整理でおこなう最大のメリットは、任意整理をすることで自己破産をせずに済むという点にあります。
前述しましたが、
- 支払不能状態ではない
- 自己破産によって資格を喪失する職業についている場合
- 不動産を所有している場合
- 免責不許可事由がある場合
このような場合、自己破産を選択すると自己破産のデメリットの方が大きくなってしまいます。
裁判所へ行かなくていい
任意整理は弁護士の方に依頼をしてしまえば、依頼をした債務者はもうやることはありません。言い方は悪いのですが、弁護士の方に丸投げしてしまえば、あとは勝手に和解交渉や過払い金返還請求などをしてくれます。
自己破産などは、裁判所を利用しますので、平日に裁判所へ行く必要があります。また、裁判所へ納める費用などが発生します。たとえばですが、自己破産の手続きのひとつである管財事件の場合は、最低でも50万円の予納金が発生します。原則、現金一括払いになりますので、裁判費用も馬鹿になりません。
自己破産より心理的な負担が軽い
自己破産は、債務整理の切り札ではありますが、「破産」というのは心理的な負担が大きくなります。任意整理は債務整理の中ではもっとも利用されているものですから、自己破産と比べると心理的な負担が軽くなります。
借金の種類を問わずに利用することができる
自己破産の場合、ギャンブルや浪費が原因の場合、免責不許可事由に該当してしまいます。また、債権者を騙そうとした借金であると認定された場合も免責不許可事由に該当するのです。
一方、任意整理はギャンブルで作った借金であっても債権者との和解交渉により整理することができます。
特にFXや株式投資のような射幸行為で作った借金の場合は自己破産では免責不許可事由に該当しますが、このような場合も任意整理で解決することができます。

利息が免除される
任意整理の効果として、将来利息が免除されます。全額免除されなくても一部免除されることもあります。それだけで、借金の減額効果というのは大きくなります。
結果として、任意整理後には無利息の借金となります。借金が無利息であれば、毎月返済するお金はすべて元本の返済に充てることができます。

不動産や自動車などの財産を没収されずに済む
前述しましたが、任意整理は、特定の債権者を対象にして行うことのできる債務整理です。

保証人に迷惑をかけにくい
自己破産などをおこなった場合、債務者本人は借金が免除されますが、免除された分は保証人へ請求が行くことになります。しかも、期限の利益を喪失していますので、保証人は借金の一括返済を債権者から求められます。
勤務先にばれない
自己破産の場合、退職金見込額(退職金債権)を勤務先から教えてもらう必要があります。そうなった場合、会社に借金をしたことがばれる可能性があります。
任意整理の場合、勤務先にも、そして家族にも内緒にして進めることができます。
官報に名前が載らない
自己破産を利用した場合、官報に名前が載ります。官報を一般人が見る機会はめったにありません。
しかし、銀行や一部のクレジットカード会社は官報の情報を収集していますので、後々不利になる可能性があります。

任意整理のデメリット

任意整理のデメリットを紹介します。
- 借金の返済が必要(収入がないと任意整理はできない)
- ブラックリストに名前が載る
- 債権者が認めなければ成立しない
これらがあります。
借金の返済が必要(収入がないと任意整理はできない)
任意整理は、債務整理の中では借金減額効果がもっとも小さく、原則として借金の返済をする必要があります。
ブラックリストに名前が載る
自己破産をした場合、信用情報機関の個人信用情報に事故情報が5年~10年間は載ります。この事故情報が載る期間が一般的にブラックリスト期間と呼ばれます。
ブラックリスト期間中は、新規借入やクレジットカードを作ることが困難になります。
- CIC(株式会社シー・アイ・シー)
- JICC(株式会社日本信用情報機構)
- KSC(全国銀行個人信用情報センター)
の3社です。
- CIC:5年
- JICC:5年
- KSC:10年
このようになります。
任意整理の場合は、すべて5年間です。ただし、任意整理の場合、場合によっては完済をしてからブラックリストに載るケースがありますので、下手をすると通算で8年間ブラックリストに載る可能性があります。
債権者が認めなければ成立しない
任意整理は、債権者と和解交渉をおこない合意することではじめて成立する制度です。
民事再生(個人再生)や自己破産のように、裁判所が認めれば成立するというものではありません。
まとめ
自己破産を選択することができないケースが存在します。
- 支払不能状態ではない
- 自己破産によって資格を喪失する職業についている場合
- 不動産を所有している場合
- 免責不許可事由がある場合
このような場合です。
このような場合、債務整理のひとつである任意整理を勧められることがあります。
- 返済期間のリスケジューリングをすることができる
- 将来利息のカットをすることができる
- 遅延損害金を免除することができる
この3点です。
しかし、任意整理は返済することが前提の和解交渉になりますので、収入がなければ利用することができません。また、債権者が交渉に応じなければ任意整理は成立しないのです。