



ということで、自己破産をすると選挙権を失うなどのようなデマがまことしやかにささやかれていますが、実際に自己破産をする、自己破産をした人はどうなるのか、そして、家族にはどんな影響があるのかなど解説をしています。
自己破産をするとどうなるの?

一時的に自分の財産を勝手に処分することができなくなります
自己破産をするためには、裁判所に破産手続開始申立をします。
この破産手続開始申立が受理され、破産手続開始決定という決定を裁判所が下した際に、持ち家などの一定額以上の財産を持っている場合「管財事件」となります。
管財事件になりますと、破産管財人と呼ばれる弁護士が裁判所により専任されます。この破産管財人が破産者(破産手続開始申立をおこなった者)の代わりに、破産者の財産を破産財団とし管理します。
破産者は自分の財産であっても、破産財団を自ら勝手に売却したり、処分したりすることができなくなります。この後は、破産管財人の主導のもと破産財団を換金処分し、公平平等に債権者へ債務の返済を行ないます。
ただし、破産手続開始申立をした後に取得した財産や一定額以上の財産が無い場合は、破産管財人は専任されません。そして、「同時廃止事件」となり財産も破産財団とはならず破産者が管理することになります。
また、破産手続開始決定後に取得した財産については、「管財事件」であったとしても、破産者が自由に売ったり買ったりすることができます。破産をしたとしても新規で不動産を再度購入することも可能なわけです。

一定額の財産とは?
ここで気になるのが一定額の財産です。
- 99万円以上の現金
- 20万円以上の価値のある自動車
- 20万円以上の預貯金・保険
- 持ち家(不動産)
などです。
衣服などの生活必需品、仕事に使う道具などは、国税徴収法「一般差押禁止財産」として差押えることを禁止されていますので、自己破産をしたからといって身ぐるみをはがされるわけではありません。
一定期間、就くことのできない職業がある
破産手続開始決定を裁判所が決定をしますと、「免責許可決定」が下るまでは破産手続開始申立をおこなった者は「破産者」になります。
破産者という状態では、様々な制限を受けます。その1つが一定の職業に就くことができないというものです。
- 弁護士
- 公認会計士
- 司法書士
- 弁理士
- 税理士
- 行政書士
- 宅地建物取引業者
- 証券会社の外務員
- 貸金業者
- 生命保険の募集員
- 警備業者
- 建設業者
- 損害保険代理店
などがあります。これらは一例です。
- 公安委員会委員
- 公正取引委員会委員
このような一部の職種を除いて職業を失うことはありません。
前述の通り、破産者は裁判所から免責許可決定が下ることで「復権」を果たし、破産者ではなくなりますので、職業の制限も同時になくなります。

自己破産をすると会社をクビにされる?
自己破産をしたことが会社にばれたとしても、それを解雇の理由にすることはできません。つまり、一般的な会社員の方が自己破産をしても、仕事を解雇されることや不利益をこうむることはありません。
そもそも、破産手続開始申立をしたという通知が会社へ送られることがありませんので、会社に自己破産をした事実にばれる可能性というのは低いと考えます。
たまに、給料の差押えが原因で自己破産がばれると紹介する記事を見ますが、給料の差押えは、現状では基本的にはおこなわれません。
給料の差押えについて
自己破産をするとどうなるかからは少しそれますが、給料の差押えについて解説をします。
たとえば、1月25日に20万円の給料が入ってくる状況で、1月20日に破産手続を開始した場合、1月25日に入金される20万円の4分の1である5万円を差押えることができます。ただし、翌月の2月25日に入金される給料は差押えの対象にはなりません。
また、33万円以上の給料をもらう場合、給料の4分の1の金額または給料から33万円を差し引いた金額全額のどちらか大きい方が差押えの対象になります。

自己破産をすると官報に名前が載る
自己破産をすると官報という国が発行する公報誌に名前と住所などが載ります。
自己破産をするとこうむると誤解されているもの

ここからは、自己破産をするとこうむると誤解されているものを紹介していきます。
自己破産をすると戸籍には掲載される
自己破産をすると戸籍に、破産した情報が載ると勘違いされている方がいますが、自己破産をしても、戸籍には掲載されることはありません。
おそらく「破産者名簿」を戸籍と勘違いしているのだと考えられます。
この破産者名簿ですが、本籍地のある市区町村の役場が、破産者かどうかを記録して管理するための名簿です。しかし、自己破産をしても9割以上の方は破産者名簿には載りません。
この破産者名簿は一般人や企業が破産者名簿を閲覧することができません。非公開の物です。原則として本人しか閲覧することができません。

自己破産をすると選挙権を失ってしまう
大日本帝国憲法では、選挙権は男性のみにしか認められていない権利でした。そして、その中には欠格事項というものがあります。
- 破産者
- 貧困により扶助を受けている者
- 居住のない者
- 6年以下の懲役・禁固に処せられたもの
- 華族当主
- 現役軍人
- 応召軍人
この者たちには選挙権が与えられませんでした。

自己破産をすると家を借りることができない
自己破産をすると信用がなくなるので賃貸で家を借りることができないという話があります。

しかし、すべての家賃保証会社が信用情報機関に登録しているわけではないのです。
登録している家賃保証会社は、クレジットカードの契約を生業にしている信販会社であり、クレジットカードを扱っているので、自己破産という金融事故の有無を調べることが可能なのです。
クレジットカードの契約にもっとも関係がある信用情報機関はCICと呼ばれるところで、ここでは5年経過することで金融事故の記録は抹消されます。5年経過すれば家賃保証会社の審査で落ちるということは、まずないと考えられます。つまり、自己破産前と同じような状態になります。

ちなみに、信販会社・LICCにも加盟していない家賃保証会社は、
- Casa(カーサ)
- 日本セーフティ
- ALEMO(アレモ)
- 日本賃貸保証
- イントラスト
などがあります。
自己破産をすると2度とクレジットカードを作れない?
自己破産をすると、クレジットカードを作るのが難しくなりますが、これも信用情報機関に自己破産をした情報が登録されている5年~10年間だけです。
これは、クレジットカード会社の社内データのブラックリストに半永久的に名前が残り続けるからです。

デビットカードの発行の際には、審査もありませんので自己破産直後であっても申込み・発行が可能な便利なカードです。
自己破産をすると海外旅行ができなくなる
自己破産をするとパスポートに自己破産をした記録が登録されて、自己破産後には自由に海外旅行をすることができないという誤解があります。

ただし、破産手続開始決定から免責許可決定を受けて復権をするまでの間は、破産者になります。
その間は、転居や長期海外旅行をする場合、裁判所の許可が必要となりますが、復権をはたしてしまえば、自己破産をする前と同じ状態になりますから海外旅行をしても問題ありません。
また、破産手続を行なわない同時廃止事件の場合は、転居や長期旅行の際に裁判所の許可を得る必要がありません。つまり、「管財事件」をする方のみに影響のあることです。

自己破産をすると家族も迷惑をこうむるのか?

ここでは、自己破産をすると家族にどのような影響があるのかを紹介していきます。
自己破産をすると家族にも迷惑がかかる?
自己破産をしても、連帯保証人に家族が名を連ねていない限りにおいて、迷惑はかかりません。連帯保証人に家族が名前を連ねていれば、家族に債権者が請求をおこないます。

とはいいましても、100%絶対に迷惑がかからないと断言することはできません。
たとえば、持ち家の名義人が自己破産をした者であれば、財産として持ち家を処分されてしまうので持ち家を出て行かなければなりません。しかし、自己破産をした者の名義以外の財産については、処分換金されることはありません。処分換金されるものはあくまでも自己破産をした者の財産だけに限られます。
自己破産をした者の財産のみが換金処分の対象になり、車の名義が、たとえば妻のものであっても、妻が働いておらず、車の購入資金をあからさまに夫が出している場合は、夫の財産として妻名義の車だとしても換金処分の対象になりますので注意をしましょう。

子供への影響について

子供への影響についてですが、教育費用の面から3点、子供に金銭的な影響を及ぼす可能性があります。
- 学資保険の解約
- 教育ローンが組めなくなる
- 奨学金の保証人になれない
このようなことが考えられます。
返戻金が20万円以上の学資保険については、財産とみなされますので、自己破産時に解約させられて、債権者に配当されます。
また、教育ローンについては、子供のために親が利用できるローンですが、自己破産から10年程度の時間が経過していなければ、審査通過が難しくなります。10年というのはKSCという銀行が利用する信用情報機関であり、自己破産の記録が抹消されるまでに10年間の時間がかかります。
そして、奨学金ですがこれは、子供が主債務者になり借りる教育資金です。通常、保護者が保証人となりますが、自己破産後5年間は自己破産をしたものが保証人になることはできませんので注意をしましょう。
まとめ
自己破産は、破産法第1条に破産法の目的というものがあります。簡単にいえば、債権者へ債務者の財産等をもって公平に精算を図り、そして債務者が経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的としています。
ということは、自己破産をする選挙権を失ったり、戸籍に自己破産をした記録が残ったりすることはありえないのです。もちろん、免責許可決定が下るまでの間、つまり、破産者の間は制限が付きますが、免責許可決定が下り復権をはたせば普通に生活するにおいて、大きな不利益をこうむることはありません。