銀行のカードローン、住宅ローンを利用している場合、自己破産することで、その銀行にある預金口座の残高については、「相殺」により没収されることになるでしょう。同時に預金口座は「凍結」させられてしまい、しばらく利用することができなくなります。
受任通知を送る前に、預金口座の相殺と凍結の対策をしておかなければなりません。また、給料の振込口座が凍結予定の場合、凍結期間中は出金することができなくなります。そのため、受任通知を送る前にすべての手続きを済ませなければなりません。
時間との勝負なので注意しましょう。
目次
銀行口座が凍結・相殺される時期

大前提ですが「凍結」と「相殺」は意味が大きく異なります。
簡単にいえば、相殺は、預金口座の残高を銀行が強制的に引き落とし、貸したお金の返済に充てる処理になります。
銀行からお金を借りる場合、ローン契約のどこかに「相殺」についての条項が必ず存在します。
- 自己破産をしたとき
- 期限の利益を喪失したとき
- 債務整理をおこなったとき
などに、銀行の預金と相殺することができるという約款が盛り込まれています。
そして、期限の利益の喪失とは、債務整理や契約違反により、債権者に対して「期限の利益」を主張できなくなる特別条項のことです。期限の利益を喪失すると、債務者は残りの債務全額を一括で債権者へ返済しなければならなくなります。
一方で、凍結については、される場合とされない場合が存在します。凍結とは、保証会社から代位弁済を銀行が受けるための手続き上の処理になりますので、銀行により取扱いの手続きが異なります。
なぜ、銀行は口座を凍結するのでしょうか?
そもそも、なぜ、銀行は口座を凍結するのでしょうか。別に嫌がらせのために凍結をしているわけではありません。凍結する理由は、債権保全のためです。
凍結・相殺のタイミングは受任通知が届いた時点でおこなわれる
自己破産手続きのどの時点で、銀行口座は凍結・相殺されるのかと言いますと、現実的でもっとも多いタイミングは、銀行へ弁護士が送った受任通知が届いた時点です。
受任通知とは、弁護士が自己破産の手続きの依頼を受けた際に、各債権者へ通知する書面です。この書面が届いた時点で債権者は債務者に対して、督促をすることができなくなります。これは、業界内の暗黙のルールではなく、貸金業法にて決められていることです。
そして、受任通知の書面が銀行に届いた時点で、銀行への債務、たとえば、銀行カードローンや住宅ローンは、期限の利益を喪失します。
また、預金口座が相殺されるタイミングというのは、銀行によって異なりますが一般的には下記のとおりです。
- 2~3ヶ月以上連続でローン返済を滞納したとき
- 弁護士の受任通知が銀行に届いたとき
- 自己破産の申立てをおこなったとき
これが一般的なタイミングです。
期限の利益喪失事由・相殺の条件については、ローン契約書に記載されていますので、確認をしたおくべきでしょう。
また、仮に銀行口座が凍結された場合、相殺と同じタイミングで凍結がなされます。そのため、一般的には受任通知が届いた時点で、預金口座はすべて相殺され、預金口座は凍結されることになります。
受任通知から2ヶ月程度で凍結は解除される
銀行が預金口座を凍結するのは、保証会社から代位弁済をけるまでの間に、債権を保全するためです。なので、通常は保証会社による代位弁済がなされた時点で、口座の凍結は解消されます。
凍結解除のタイミングについては、破産手続の進捗とはまったく関係がありません。そのため、破産開始決定や免責許可決定を受けたタイミングと時期を同じくして凍結が解除されるわけではありません。あくまでも、保証会社が代位弁済をおこなってから凍結が解除されるのです。
ただし、管財事件になった場合、破産管財人からの連絡を受けて凍結を解除して、口座をそのまま、破産管財人に引き継ぐことはあります。
自己破産をしても新規口座を開設することができるのか?
自己破産をしても銀行口座を開設することはできます。
そのため、自己破産を経験している人であっても、銀行口座の開設はまったく問題にはなりません。
凍結・相殺の対象になる銀行について?
自己破産とはまったく関係ない口座が凍結されることはありません。つまり、銀行カードローンや住宅ローンを利用している銀行の預金口座のみが凍結されるのであり、一切借入をおこなっていない預金口座は凍結・相殺されることはありません。
例として、三菱東京UFJ銀行のカードローンである「バンクイック」を上げます。バンクイックにて借入があり自己破産をすれば、三菱東京UFJ銀行に預金口座がある場合、預金口座は自己破産によって相殺されてしまう可能性があります。
しかし、三菱東京UFJ銀行の系列の消費者金融機関であるアコム、クレジットカード会社であるニコスから借入がある場合、自己破産をしても、三菱東京UFJ銀行の口座が凍結されたり、相殺されたりすることはありません。

相殺後の入金はどうなるのか?


しかし、前述のとおり口座の凍結は相殺後もしばらくは続きます。ただし、凍結中の口座に・給料・年金・売掛金が振り込まれたとしても、銀行はそれを勝手に引き落として相殺することはできません。
これは、破産法第71条1項3号にある「相殺の禁止」に規定があります。
第七十一条 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
三 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
簡単に言えば、「受任通知を受け取った後に、もし銀行がお金を預かった場合、その相殺にあててはいけない」という内容になります。
つまり、受任通知を送った後に、間違ってお金が入金されたとしても、銀行が相殺にそのお金を使うことはありません。口座が凍結されているので、しばらくお金を引き出すことができませんが、少なくとも相殺されることはありません。
裁判所に没収される可能性はある

銀行に相殺されないとしても、自己破産の手続き上、裁判所や破産管財人に没収される可能性があります。銀行の相殺とは別の話です。
なぜなら、20万円以上の預金は没収対象になります。自己破産の開始決定時に保有している財産は、原則として、すべて破産財団に組み込まれます。
破産財団に組み込まれた財産は、債権者のための財産として配当に回されます。凍結中の銀行口座から、凍結・相殺されない別の安全な口座に移したとしても20万円以上あれば、没収の対象になります。
原則として、破産手続では20万円以上の預金口座は没収されます。そのため、もし自己破産の開始決定よりも前に、凍結中の口座に給与が振り込まれてしまい、その給料が20万円を越えた場合、破産管財人により没収されてしまう可能性があります。
また、管財事件であっても、給料は生活維持のためには必要なお金です。そのため、裁判所の判断により、自由財産の拡張が認められる可能性は高いでしょう。この場合であっても、預金を手元に残すことは十分に可能であるといえます。
新得財産はすべて破産債務者の物
当然の話ですが、自己破産の開始決定以降に手に入れた新得財産が、口座へ入金された場合、破産財団に組み込むことは禁止されています。そのため、すべて破産者の自由財産、つまり自由に使うことのできる破産者の財産となるのです。
凍結口座対策について

自己破産をする際、債権者に銀行などの債権者が含まれている場合、預金口座が凍結される可能性が高くなります。
- 給料や年金の振込先口座の場合は、変更する
- 公共料金や家賃などは、引き落とし口座を変更する
- 出金し残高を0円にしておく
出金し残高を0円にしておくのは当然のことです。受任通知が送られる前に口座残高を0円にしておきましょう。残高があると相殺されてしまいます。
そのため、金額によっては、預金口座から引き出したお金は、弁護士の預かり金口座に保管してもらい、そのまま破産管財人に引き継ぐケースもあります。当然ですが、破産手続がすべて完了するまで、その現金は自由財産にはなっていませんので、好き勝手に使用することはできません。
給料や年金の振込先口座の場合は、変更する
預金口座が凍結されると、その口座に給料や年金が振り込まれても凍結中は引き出すことができません。そのため、受任通知を送る前に、弁護士から給料の振込先や年金の振込先が凍結されるのであれば、変更しておくように指示されることがあります。
まとめ
受任通知を銀行側が受け取った時点で、銀行の口座は凍結されてしまい、以降ATMから引き出すことは、2~3ヶ月の間不可能になります。また、凍結と同時に相殺がおこなわれ、預金口座の残高は強制的に借金の返済に充てられてしまいます。
これは、法的に認められた行為なので、銀行系カードローンや住宅ローンを銀行から融資してもらっている上で、その銀行に口座がある場合、銀行系カードローンや住宅ローンなどを利用していない銀行口座にお金をうつしておくようにしましょう。
また、凍結中は出金はできませんが入金はできるので、給料や年金、売掛金などの振込口座を別の口座にするようにしてください。