自己破産をしたら、海外旅行はできない?パスポートは没収されてしまうの?

自己破産という名前から、一度でも利用してしまうと人生が終わりというイメージがありますが、実のところ自己破産ほど人生の再起に利用できる制度はありません。そのため、弁護士の多くが無理な返済プランを立てるよりは、自己破産をすべきだと勧めます。

さて、自己破産でよくある誤解として「パスポートの発行ができなくなる」や「パスポートに自己破産をした事実が記載される」、また「パスポートを没収される」といったものがあります。

多くの方が、もしかして海外へ二度と行けないの? と思っているわけですが、実際のところはどうなのでしょうか。今回は、自己破産をするとパスポートは発行できなくなるのか、そして、パスポートは没収されてしまうのかなど、自己破産とパスポートの関係性について紹介していきます。

自己破産の手続き

自己破産とは、すべての借金(非免責債権を除く)を全額、合法的に免除にする法的な手続きです。

[aside] 非免責債権とは、税金(固定資産税・住民税・自動車税)や社会保険料、下水道代などを指します。税金については納税の義務があり、破産法より義務のほうが勝りますので、自己破産をしても免除にはなりません。[/aside]

自己破産の手続きとして、裁判所へ申立てをおこない、破産手続開始決定を受けることにより始まります。破産手続とは、簡単にいえば破産者の所有している資産の換価処分し、債権者に配当する手続きです。

もちろん、全財産が換価処分の対象になるわけではありません。差押え禁止財産というものがあり、たとえば、日用雑貨や20万円以下の家電、スマホ、仕事道具などは差押えて換価してはいけない財産となっています。

また、20万円以下の財産、99万円以下の現金も差押え禁止とされています。また、裁判所に選任された破産管財人が認めた、財産については自由財産拡張として所有することが可能です。

20万円以下の財産は自由財産になる、20万円基準はもっとも多く採用されている基準ではありますが、地方裁判所ごとに20万円基準を採用していなかったり、按分弁済という制度を設けていたりするところもありますので、必ず地元の弁護士に財産の基準を聞き、手続きを進めるといいでしょう。

換価処分できる財産を所有していないときは「同時廃止事件」となります。事件とつきますが、裁判所の専門用語で「案件」のことを「事件」と呼びます。話がそれましたが、同時廃止事件の場合は、破産手続開始後すぐに破産手続の廃止が宣言され、次の免責許可決定へと進みます。

処分する財産がありませんので、破産管財人と呼ばれる弁護士が選任されることもありません。そのため、破産管財人弁護士へ支払う費用も少なくて済み、弁護士に自己破産の手続き開始のために支払う予納金の額が少なくて済みます。地方裁判所により異なりますが1万円~1万5,000円程度の予納金で自己破産をすることが可能です。

また、同時廃止事件の場合、2~6ヶ月程度で自己破産の手続きが終了します。

[aside type=”boader”] 同時廃止事件は、財産を一切持っておらず必ず免責を受けることができる人物しか利用することができません。たとえば、免責不許可事由に該当する行為、ギャンブル・浪費・射幸行為(株やFXなど)が原因で財産を失い自己破産をする場合は、同時廃止事件を利用することはできません。

つまり、財産がなく、必ず免責許可を受けられなければ、同時廃止事件は利用することができません。[/aside]

一方、破産管財人弁護士を選任するのが「管財事件」です。管財事件が本来の自己破産の手続きであり、実は同時廃止事件はイレギュラーな手続きになります。とはいえ、現在は管財事件よりも圧倒的に同時廃止事件が利用されています。

ただ、東京地方裁判所の場合は同時廃止事件よりも管財事件を奨励している傾向があります。詳しくいうのであれば、弁護士を雇うことを進める傾向があるといったほうが正しいでしょうか。弁護士を雇うことにより、同時廃止事件に限り、弁護士と裁判官が面談をおこない即日で破産開始手続が完了する制度があります。

[aside] 少し話がずれますが、民事再生(個人再生)を東京地方裁判所でおこなう場合、個人再生委員が必ず選任されます。他の地方裁判所の場合、弁護士や司法書士を雇っている場合、個人再生委員は選任されませんが、東京地方裁判所の場合は弁護士を雇っていても必ず、個人再生委員が選任されます。[/aside]

話を戻しますが、破産管財人の場合、資産を所有したまま自己破産をすることにより、破産管財人が資産の換価処分をおこないます。この破産管財人弁護士へ支払う費用として、最低でも50万円の予納金を現金で裁判所に納めなければ、自己破産の手続きを進めることができません。

そして、財産を換価処分する過程がありますので、免責許可を得るまでに最低6~1年程度の期間がかかります。不動産などのような売れにくい資産を持っている場合は、自己破産が完了するまでの期間が長くなる傾向があります。

管財事件の場合、資産を持っていますので、資産を隠したり、破壊したり、安価で他人に譲り渡して、債権者の利益を著しく損なわないように、さまざまな制限がかけられます。

[aside type=”boader”] その中の制限の一つが、「海外旅行の制限」や「転居の制限」です。海外に高飛びされて財産を隠されてしまっては、債権者の利益を損なうどころではありませんので、破産手続き期間中のみ海外旅行へ行くことはできなくなります。[/aside]

前述しましたが、現在、弁護士に依頼した場合、約90%が同時廃止事件になりますので、この海外旅行や旅行、また転居の制限について不便であると思う方はまずいないでしょう。

また、管財事件を簡略化させた「少額管財事件」という方法もあります。少額管財事件は弁護士を雇うことで利用することができる自己破産の手続きであり、管財事件より安い予納金(20万円)で利用することができ、3~6ヶ月で手続きが終了します。

ただし、少額管財事件はすべての地方裁判所で採用されているわけではなく、一部の地方裁判所での運用となり、名称も地方裁判所ごとに異なります。利用を検討しているのであれば、弁護士に相談をしてみましょう。

では、パスポートは作れなくなるのか?

管財事件の場合、海外旅行が制限されると前述しました。

[voice icon=”/wp-content/uploads/man_tag.png” name=”man” type=”r”]自己破産の手続きの管財事件になった場合、一生海外旅行や転居が制限されるの? [/voice] [voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]答えは、違います。あくまでも破産手続きの期間中のみです。つまり半年~1年程度で破産手続きは終了しますので、この期間だけ制限が付きます。[/voice]

また、制限が付くだけであり、裁判所にきちんと届けを出して許可をもらえば、問題なく海外旅行をすることもできますし、転居も可能です。

では、問題のパスポートが作れなくなるのかどうかですが、パスポート作成には、自己破産の有無は関係ありません。もちろん、自己破産をしたからといって、パスポートを没収されることもありません。

当然ですが、自己破産をした事実がパスポートに記載され、一目で自己破産をしたことがばれるというのも嘘です。

自己破産をしてもパスポートの取得は可能

自己破産をしても、パスポートの取得については何の問題も影響もありません。自己破産の免責が確定すれば、借金がなくなったうえで復権を果たしますので、破産者ではなくなります。破産者ではないので一般人と同様の生活を送ることができます。

パスポートは問題なく取得することができますが、クレジットカードの取得は難しくなりますので、海外旅行へ行く場合不便を感じるかもしれません。
[aside type=”boader”] ただ、海外プリペイドカードという海外でクレジットカードとキャッシュカードのように利用することができる、プリペイドカードがありますので、それを利用することにより、クレジットカードがなくても問題なく海外旅行を楽しむことができるはずです。[/aside]

なぜ、パスポートが取得できないという噂が立ったのでしょうか?

その答えとしては、免責確定までの間に勝手に住所を変えてはいけないという、旅行してはいけないという制限があるからでしょう。全述しましたが、裁判所の許可をとれば、旅行はできますし、転居もすることができます。自宅を持っている場合は転居しなければなりませんので、転居が一切できないというのは合理的ではありません。

また、そもそも、海外旅行に行くだけの現金があるのであれば、生活再建のために使うべきであり、道義的には自己破産の免責が下りるまでは静かにしていたほうがいいでしょう。裁判所や破産管財人に悪印象を与える行為の結果、免責が下りなかったら面白くありませんので、免責を得て合法的に借金を整理してきれいになったのちに行動を開始したほうが、後々面倒くさくならなくていいでしょう。

そもそも、自己破産はパスポートの発給制限事由にはならない

パスポートは、法律上では「旅券」と呼びます。そしてパスポートの発行、そして効力については「旅券法」という法律により定められています。

[aside] 旅券法は、パスポートの発給・条件・効力・その他・旅券(パスポート)に関する必要事項など定めた法律になります。この旅券法によりパスポートが取得できない条件が定められています。[/aside]

旅券法の第13条「一般旅券の発給等の制限」にてパスポートの発給禁止及び制限されるケースが明記されています。

では、旅券法第13条にはどのようなことが書かれているのかを具体的かつ簡潔に紹介をしますが、実際問題、普通に生活を送っていれば、旅券法第13条に引っかかることはありません。

[aside type=”boader”]
  • 渡航先の法律により、その国へ入ることが認められない者
  • 死刑・無期懲役・長期2年以上の刑により逮捕・訴追されている者
  • 禁固以上の刑に処せられて、執行中・執行猶予中の者
  • パスポートを偽装・偽装未遂した者
  • 日本の利益、公安に害する行為を行う恐れがあると、外務大臣に認定された者
[/aside]

これらが、パスポートの発給制限事由になります。つまり、相当まず犯罪さえ起こしていなければ、旅券法第13条に引っかかる心配はないということです。もちろん、第13条の中には、自己破産をした旨の文言がありません。また、自己破産は合法な行為ですから、旅券法第13条にひっかかることはありません。

[voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]自己破産をしてもパスポートが発給されなくなることはありません。[/voice]

そのため、自己破産をしてもパスポートを発給することができます。また、よくある都市伝説ですが、パスポートに自己破産した事実が記載されるというものがありますが、そのようなことがパスポートに記録されることはありません。これも列記とした都市伝説です。

パスポートの失効事由

自己破産をしても、パスポートは没収されないと前述しましたが、これも旅券法にて定められています旅券法第18条にパスポートの失効事由が記載されています。

簡単にまとめると下記のようになります。
[aside type=”boader”]

  • パスポート(旅券)の名義人が死亡・日本国籍を失った場合
  • パスポートの発給申請を行ってから、6ヵ月以内にパスポートを受領しない場合
  • パスポートの有効期間が満了したとき
  • 一往復用のパスポートの名義人が日本に帰国したとき
  • 旅券の発給申請・請求にあたって返納された場合
  • 返納を命じられた旅券で、期限内に返納されなかったとき、または外務大臣・領事館が返納されたパスポートが効力を失うべきと認めたとき
[/aside] このようになります。

[voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]小難しいことは置いておいて、旅券法第18条には自己破産したことが、パスポートの失効事由には含まれていません。そのため、自己破産をしたことが原因で、パスポートが没収もしくは失効するということは絶対にありえません。[/voice]

ここまでのことをまとめると、下記のようなことがわかります。
[aside type=”boader”]

  • 自己破産の手続き中でも裁判所の許可があれば、海外旅行は可能。自己破産後は一切の制限を受けない
  • 自己破産をしても、パスポートを新規で取得することが可能
  • 自己破産が原因でパスポートが失効・没収されることはない
[/aside] ということがわかります。

[voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]基本的に、自己破産の約90%が同時廃止事件の現状からいえば、一番の「自己破産の手続き中でも裁判所の許可があれば、海外旅行は可能。自己破産後は一切の制限を受けない」はそこまで気になる問題にはなりません。[/voice]

そして、自己破産はパスポートの取得に影響を与えず、また、失効・没収の理由にはなりません。

自己破産すると入国が断られる?

自己破産が原因で外国への入国が断られるということはありません。前述しましたが、自己破産の履歴はパスポートに載りませんし、自己破産は犯罪ではありません。合法的な借金の整理法なので、自己破産が原因で入国が断られることはないでしょう。

ただし、アメリカへ行く場合は注意が必要になります。アメリカはESTAという入国申請が必要なのですが、このESTAですが有料なのです。しかも、クレジットカードで支払わなければならない点が厄介です。

自己破産をしてクレジットカードが作れなくなるのは、自己破産を申立て本人のみで家族はクレジットカードが使えますので、家族のクレジットカードを利用するか、デビットカードを利用するという方法があります。

デビットカードは、クレジットカードと似たような機能を持っていますが、利用したら銀行口座から即現金が引き落とされます。そのため、銀行口座に預金がない場合は、利用することができません。

また、前述したとおり、海外プリペイドカードなどを利用することにより、クレジットカードがなくても、海外旅行で困ることはないでしょう。

[voice icon=”/wp-content/uploads/concierge_tag.png” name=”concierge” type=”l”]デビットカードと海外プリペイドカードの2種類を持っていけば、安全面からみても問題ありません。[/voice]

自己破産後、海外で働くことは可能か?

自己破産後、免責を得れば「復権」を果たします。復権を果たし場合、破産者ではなくなり、破産者として受けていた制限一切が解除されます。

そのため、普通に海外で働くことが可能です。免責さえ得てしまえば、自由の身です。海外で働いても、海外で暮らしても、だれからも文句はいわれません。なぜなら、自己破産は合法な手段での借金整理方法なのですから。

まとめ

自己破産をした場合、海外旅行をすることができなくなる、パスポートが没収されるという都市伝説がありま。これは、都市伝説であり事実ではありません。

まず、「海外旅行することができなくなる」ですが、これは管財事件の場合、海外旅行をする場合、裁判所の許可が必要という事実から広まった噂です。破産手続きさえ完了してしまえば、自由に海外旅行をすることができます。一生、海外旅行ができなくなるわけではありません。

また、パスポートの発給ができなくなるですが、旅券法というパスポートに関する法律の第13条(一般旅券の発給等の制限)には、自己破産をするとパスポートの発給が制限される旨は記載されていません。つまり、自己破産をしてもパスポートの発給に問題はありません。

そして、パスポートの失効事由は旅券法第18条に記載されていまうすが、こちらも自己破産したことが原因でパスポートが失効する旨の記載はありません。つまり、自己破産をしてもパスポートが没収されたり、失効したりすることはありません。

海外旅行に行くときは、クレジットカードを持つことができませんので、デビットカードや海外プリペイドカードを持っていくといいでしょう。

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